日本の小売業界が不安です。安さを売りに大型店舗が郊外に立ち並び、大勢のお客が訪れていたのは、今は昔。ECを含め過当競争に晒されています。業績は芳しくなく、従業員の給与も上がらない。日本の消費自体を下げているのではないでしょうか。改めて日本の小売業界について考えてみました。
流通の一部になった日本の小売業界
ひと昔前、小売の代表、スーパーマーケットは地域にとってのプラットファーマーでした。大江健三郎著『万延元年のフットボール』で登場するスーパーのように、周辺の個人商店を凌駕し、その地域の流通を支配する。近隣住民は、そのスーパーの品揃えと品質と価格に従って普段の生活を送らなければならなかったのです。
商品を提供するメーカー側も、自社の商品をより多く販売してくれる販売店には頭があがりません。課仕入れ値に便宜を図ったり、特別なインセンティブを提供したりしました。
ところが今や小売は過当競争状態。お客は近くにあるからという理由だけでは、その店を選びません。ECや宅配スーパーもあり、物理的な制約もなくなりました。安さはもちろん、品揃え、ポイントサービスで選ばれます。「このお店でしか物を買わない」と決めているお客は皆無でしょう。
メーカー側もいちいち便宜を図りません。大量に発注するのであれば、その分、機械的に値引きするだけです。それが嫌なら独自でルートを開発しなければいけません。自社ECの構築も容易になったので、メーカー側も直接お客と取引ができます。卸先の小売店と競合するので、今は気を使って値引きもせず、品揃えも限定的ですが、それも時間の問題。小売が役に立たないと判断したら、直接取引を優先することでしょう。
お客様と小売とメーカーの関係性が変わった今、小売はもはやプラットフォーマーではありません。メーカーから消費者に商品を受け渡す流通の一部と言えます。ある近所のお店が明日潰れて困るのは、そこにしかお店がない地方の方や高齢者の方ぐらいでしょう。
世界の新たなプラットフォーマーたち
その間、デジタルの世界では新たなプラットフォーマーが登場しました。「Amazon」「Apple」など。商品や検索、映像、音楽など様々なコンテンツを提供してくれます。明日からAmazonがなくなったら、仕事もプライベートも崩壊してしまうでしょう。それぐらい欠かせない存在です。多少サービスや価格が変更されても、私たちはそれに従うしかありません。
なぜなら代替サービスがないからです。メーカーも同様。圧倒的な販売量を担保してくれるAmazonのバイヤーの指示を聞かざる負えません。また、小売自体もマーケットプレイスと言われるサービスを利用して、Amazonや楽天という巨大なショッピングモールに出店します。圧倒的な集客が期待できるからです。まさにプラットフォーマーと呼べます。
消費者もそのプラットフォーマーを嫌々受け入れているわけではありません。常に新しいサービスや商品を提供してくれ、そこにストレスは感じない。それどころか、新しいiPhoneが出たときのように、生活をワクワクさせてくれる存在です。平日、朝起きてから仕事をして寝るまで。休日朝起きてから寝るまで。スマホやPC、そして外出先でも。何度も、上記のプラットフォーマーと出会います。まるでガス・水道といったインフラのごとく、彼らは生活に入り込んでいるのです。
こうして新たなプラットフォーマーは、多大な利益を得て、それを元手に新たなサービスを開発していきます。そのための人材への投資も惜しみません。給与水準もかなり高いです。一方、旧来型の小売は薄利多売を続けるのみ。従業員に払える給料も限られます。そもそも従業員を雇える体力もないので、パートやアルバイトで代替します。それも最低限の人数で。
現場のオペレーションは複雑になっていく一方、人間への投資は減っていきます。雇われている側の人間は疲弊していき、丁寧な接客を心がける気持ちはなくなっていくのです。こうして、小売は本当にただ物をお客に渡す、流通の一部になってしまったのです。
日本の小売業界のプラットフォーマーたち
一方、業績が良い、小売も存在します。ユニクロで有名なファーストリテイリングやニトリ、カインズなど。彼らはまず他では買えないプライベートブランドを扱っています。値段は安価だが、激安というほどでもありません。ただし、手が届かない金額でもありません。そして品質も価格に見合っています。「価格納得度」が高いのです。そしてサービスも充実しています。
特にデジタル領域への投資を惜しまず、ECとリアル店舗をシームレスにつなぎ、お客の負荷を減らしています。例えば、ECで購入した商品を店舗で受け取れたり、店舗で買った商品を自宅配送にできたりします。利便性を実感したお客は、またこの店で購入したいと思うのです。
メーカーも彼らの言うとおり原料や製品を作れば大量に仕入れてもらえるので、彼らに追従します。やはり彼らもプラットフォーマーなのです。デジタルのそれとは違い、毎日接点があるわけでないですが、土日のおでかけ場所として名指しされる場合も多いことでしょう。
プラットフォーマーとそうではない企業の違い
さて、プラットフォーマーたるお店や企業と、プラットフォーマーではないお店や企業の違いは何か考えてみました。恐らく以下ではないでしょうか。
- ここでしか買えないという独自の商品・サービスを扱っている。
- 何を扱い、それがどんな物かということが明確。ブランド価値が高い。
- 圧倒的に顧客側に立って考えている。サービス向上に投資を惜しまない。
- 価格納得性が高い。価格と商品パフォーマンスが合致している。
苦境に立つ日本の小売業。今後も減収減益が続くので、人件費を減らし、投資を減らし、身を切って薄利多売を続けるのでしょうか。お店に大量の商品を並べ続けるのでしょうか。そこにお客はついてくるのでしょうか。
「我々はお客に何をすべきお店・企業なのか」を改めて問うときだと思います。日本の小売が元気になって、従業員の給料もあがり、消費が増えて経済が回っていく。そんな日本に向かって欲しいと思います。
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