映画『グリーンブック』の感想

レビュー

 「寂しい時は自分から先に手を打たなきゃ」 

 この映画を物語る名セリフだ。寂しいときほど、孤独になる。友人や家族から連絡が来れば喜んで受け入れるが、自分からはしようとしない。弱った精神状態で人に連絡をするのは、自分の弱さをさらけ出すことになるし、相手の貴重な時間を浪費させて嫌がられるのではなかという疑心暗鬼に囚われるからだ。
 
 そして、孤独になる。寂しい思いを胸に抱えたまま一人で過ごす。また、寂しくなる。そんな悪循環になってしまう。苦境に立つ者こそ、プライドや疑心暗鬼を捨てて、勇気をもって誰かに連絡を取るという行動こそが重要なのだと実感した。

 男二人、2か月間、車で演奏ツアーをする。いわばロードムービーが、本作『グリーンブック』だ。第91回アカデミー賞では作品賞・助演男優賞など三部門を受賞。タイトルになったグリーンブックとはガイドブックのことで、アメリカ合衆国が人種隔離政策時代の1930年代から1960年代に、自動車で旅行するアフリカ系アメリカ人を対象として発行されていたらしい。

 黒人の人種差別問題を扱った本作だが、同様の作品との違いは、登場人物の二人の関係。天才黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーが雇い主。運転手兼ボディガードのトニー・リップが雇われ側だ。当然、雇い主の方が立場が上だが、ツアー先はアメリカ南部。当時はまだ黒人差別が残っている。シャーリーは各地で、差別を受けることになる。イタリア系のリップは、そのたびにシャーリーを守っていく。

 とはいっても最初から二人は信頼関係にあるとは言い難い。トニー自身、映画の冒頭で黒人が飲んだグラスを、怪訝な顔してごみ箱に捨てるほど差別意識がある。シャーリーに雇われたのも、家族を養うためのお金目当てだ。シャーリーにとってもトニーはただの付き添い人。その腕っぷしは便りにしているものの、プライベートは関与しない。最初の頃は、車中はふたりきりだが、トニーが一方的に話すだけで、会話は弾まない。ホテルに泊まるときも夜は別々。シャーリーは毎晩、一人でウイスキーのボトルを開ける。物思いにふけながら。

 しかし、差別という逆境に対して立ち向かっていくうちに、徐々に打ち解け始める二人。トニーは欠かさず、家にいる妻に手紙を送っていた。まともな文章が書けないトニーに対して、シャーリーは見るに見かねて。まるで詩のような文章を教示する。その流れでトニーはシャーリーに音信不通の兄がいると聞き、冒頭の言葉をシャーリーにアドバイスする。

「寂しい時は自分から先に手を打たなきゃ」

 無事にツアーを終えてそれぞれの自宅に帰る二人。トニー家では、妻や子どもたち、そして大勢の親戚たちがクリスマスパーティを開いていた。一方、シャーリーの家はひとり。そのとき取ったシャーリーの行動は、これまでの彼では考えられない行動だった。シャーリーとトニーの友情に心を打たれる映画である。

 

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