子どもは生まれてきてから、何度もデビューをする。
初めての入浴。
初めての食事。
初めての公園。
付きそう親も初めての経験だ。
子どもと一緒に入浴。
子どもと一緒に食事。
子どもと一緒に公園。
少しの緊張感と高揚感が、そこにある。
「お父さん、この映画見たい」
5歳になった長男が、テレビのCMを見ながらつぶやいた。まだ公開中の映画だ。これまで映画といえば、テレビかDVDだった。
映画館デビューか。
次男はまだ2歳。映画館に連れていくことは厳しい。そこで妻と相談し、私と長男のふたりで映画館に行くことにした。
長男とふたりだけでお出かけすること自体、公園や買い物以外ではめったにない。私はそのことにも喜びを覚えつつ、映画館のチケットをウェブで予約した。
当日。私は長男と初めてふたりで電車に乗り、映画館のある街へと向かった。私はいつもより長男の手をしっかりと握った。
映画館に着くと、私はチケットを受け取り、すぐに売店に向かった。一番大きなポップコーンとジュースを買うためだ。ポップコーンを受け取った長男の目は、漫画のようにキラキラ輝く。
受付でチケットを見せて入場すると、子ども用のクッションを探した。子どもが生まれる前に、なんとなく存在を知っていたので、今日はそれを忘れないようにしていた。
自分の席を確認して、長男を横に座らせる。ポップコーンとジュースを椅子の横に置いてあげる。長男は、スクリーンに映し出される宣伝に早くも釘付けだ。そして、いよいよ映画が始まる。
映画館は真っ暗になり、画面が広がる。大人でさえ、何度経験してもワクワクする瞬間だ。長男はポップコーンをつまみながら、じっとスクリーンを見続けた。
「楽しかった」
普段、あまり感情を口に出さない長男だが、映画が終わったあと、すぐに私に伝えてきた。
私は嬉しくなり、売店で映画のグッズを買ったり、帰り道にマクドナルドで食事をしたりした。また、私の小遣いが減っていくのも惜しまず……。
その一週間後、長男が思いがけないことを言い出した。
「また見に行きたい。今度はみんなで見に行きたい」
同じ映画をまた見たいというのだ。あまりにも強く言うものだから、仕方がなく、一週間前と同じ行動をすることになった。今度は家族4人で。
ただ、先週と違うのは、今度は長男がガイド役ということだ。得意げに、妻や次男を先導していく。
「はい、みんなここで降りるからね」
「お母さん、ポップコーンでいい? あそこで買うんだよ」
「クッションはそこね。二つ取って」
ひょっとしたら先週よりも楽しそうな様子だ。
先週の「楽しかった」という言葉は、映画自体もそうだが、映画館で映画を見るという行為自体が楽しかったのだろう。飽きもせず二回目の映画をじっと見つめる長男を見ながら、改めてそう思った。
次男はスクリーンの大きさに圧倒されたのか、騒ぐことなくじっとしている。妻は初めての映画を楽しそうにみている。
さて、私はというと、同じアニメ映画を二週続けて見るのは、さすがに……。今度は一緒に何デビューをしようか。そんな空想の世界の方に浸ることにした。
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