父は仕事の関係で
海外への出張が多く、
子どもの頃あまり一緒に
遊んだ記憶がない。
ただ、たまに帰ってきたとき、
無言でキャッチボールを
した記憶は鮮明にある。
まだ私は小学生だったと思う。
野球はあまり上手ではなく、
父のかまえたミットに
なんとかボールを
投げてやろうと必死だった。
しかし、ボールは無情にも
父の頭の上を超え、
父がボールを拾いに走っていく。
自分の下手さを
不甲斐なく思った。
父は手加減して私に投げかえす。
ときおりワンバンドを投げてくる。
夕闇の中、そのボールを
必死に取りに行った。
親子の間で特に会話はない。
父親はそのとき何を
思っていたかわからないが、
私自身には楽しかった思い出だ。
たまにしか帰って来ない父親と、
ただボールを投げあっている。
映画「フィールドオブドリームス」の
キャッチボールのシーンを見たとき、
自分と父の姿を重ねたものだ。
さて、時代は過ぎ、
私自身が父親になった。
残念ながら息子は野球に興味がない。
というよりスポーツに興味がない。
興味があるのはYouTubeとゲームだけ。
目が悪くなったり、
運動不足になったり
しないかと心配になる。
そこで、息子を公園に
連れ出すのが私の役目だ。
最初は砂場や滑り台で
遊んでいたのだが、
球技もそろそろと、
部屋用の柔らかい
玩具のボールを買ってみた。
目論見どおり、家では
そのボールで遊ぶことを覚えてくれた。
「よし、そろそろ外でボール遊びだ」
息子の6歳の誕生日はもうすぐだ。
本当はキャッチボールがしたいのだが、
まだ小学1年生なので、難しいだろう。
サッカーボールを蹴ることなら
簡単かもしれない。
誕生日にプレゼントすることにした。
ボールは奮発して公認球というものにした。
Amazonから届いたボールを
確認すると、思ったりより固い。
これまで玩具のボールしか
蹴ったことのない息子も戸惑っているようだ。
公園に行って、そのボールで遊んでみた。
息子は上手に蹴れないようだ。
私は横にそれたボールに追いつき、
息子に蹴り返す。
息子はボールをとめることなく、
私の方に蹴り返す。
また横にそれていく。その繰り返し。
息子はすぐに疲れて休んでしまったが、
私は充実感にあふれていた。
もっと大きくなったら、
今度はキャッチボールしような。
木陰で休む息子を見ながら
心の中でそう伝えた。
さて、と。3歳になる次男も
公園に連れてきたので、
今度はそっちと遊ぶことにした。
次男はわざと私がいないところにボールを
蹴って、私が走って追いかけていく
姿を見て喜々としている。
とんだ小悪魔だ……。
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